「生体弁」という言葉を聞いたことはありますか?
心臓弁膜症の治療において、悪くなった弁を切除し人工弁に置き換える弁置換術という手術があります。
この人工弁には2種類あり、1つが機械弁、そしてもう1つが生体弁です。
この2つの弁の違いや使い分けについてをこの記事でご説明します。
耐久性に優れた機械弁
機械弁は、チタンやパイロライトカーボンなどの人工材料を素材に造られています。
機械弁は約200年は壊れないと言われているほど耐久性に優れています。
そのため弁を取り換える再手術をする可能性が低いことが特徴です。
しかし、機械弁は血栓ができやすくなるため、機械弁の弁置換術を受けた後は生涯にわたり血を固まりにくくする抗血液凝固剤(ワーファリン等)を服用しなければなりません。
抗血液凝固剤を服用するため、怪我をしたときには血が止まりにくくなります。
日常生活において注意が必要です。
薬の服用が不要な生体弁
生体弁は、ウシやブタの生体組織(心臓等)を素材に造られています。
生体弁は耐久性が低く、10〜20年ほどで取り換える必要があります。
しかし「明日緊急で取り換える必要がある」などのように急激に劣化することは無いため、事前に取り換える日を決めて計画的に対応ができます。
生体弁は血栓が出来にくいため、抗血液凝固剤(ワーファリン等)の服用は術後3ヶ月ほどで済む場合が多いです。
それ以降は持病などが無い限りは食事も運動も以前と同じような生活を送ることができるため、QOLの向上に繋がるとされています。
人工弁の選び方はそれぞれ
どちらの人工弁を選ぶかは、患者様と主治医の相談のもとで判断いただきます。
年齢や症状などで適する人工弁が異なります。今回はその一部をご紹介致します。
年齢で考えよう
選び方の考え方の一つは年齢です。
機械弁は半永久的に使えるため、薬は必要になるものの再手術となる可能性は低いです。そのため、比較的若い方には今後取り換える必要のないであろう機械弁が適する傾向があります。
薬の服用で考えよう
もう一つは抗血液凝固剤の服用を基準としたに考え方です。
出血性疾患や肝機能障害がある方、怪我の危険のある職業の方、または妊娠を希望される女性には抗血液凝固剤の使用が難しいため、生体弁が有力となります。
逆に、出血性疾患や肝機能障害がある方、怪我の危険のある職業の方、または妊娠を希望される女性には抗血液凝固剤の使用が難しいため、生体弁をお勧めしています。
生体弁でウシやブタの生体組織を使う理由とは
生体弁では、なぜウシやブタが使われているのでしょうか?
生体弁の開発がはじまった当初は、現在の臓器移植と同じように亡くなったヒトの弁を移植しました。
しかし入手が難しいため、ブタやウシの生体組織を使用するようになり、改良を重ねながら現在へと続いています。
「自分の身体にブタやウシの生体組織が入っても大丈夫なの?」
そう不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
ブタは1965年から、ウシは1976年から生体弁として活用がはじまりました。
長い歴史の中で開発と改良を重ね、現在は日本でも広く使われるようになりました。
機械弁との違いや個人差はありますが、問題なく使用いただけますのでご安心ください。
自分に合った人工弁を考えましょう
機械弁と生体弁について説明致しましたが、いかがでしたか?
年齢や生活スタイル、今後の暮らしなどによって、どちらが合うかは人それぞれです。
ご自身の弁膜を残すことが最優先ではあります。
しかし、改良によって現在の人工弁は日常生活において十分な機能を持っています。
機械弁では、血栓の関係でどうしても一生にわたって薬と付き合う必要があります。
一方で今後再手術の可能性があるとしても、これまで通りの日常を過ごしたい方、ご出産を考えている方、怪我をする可能性の高いご職業の方などにとって、生体弁はQOL向上に繋がる人工弁です。
弁置換手術を考える際には、一つの参考にしてみてください。