不整脈にはいくつかの種類がありますが、拍動の遅い不整脈を「徐脈」といいます。
徐脈の治療では、「ペースメーカー」が必要になる場合があります。
- 「徐脈」は何が原因で起こるのか?
- どのような人がペースメーカーを必要とするのか?
- ペースメーカーを使った治療方法と日常生活における注意点は?
本記事ではこのような疑問にお答えします。
徐脈とは
不整脈において、拍動が異常に遅くなったり、間隔が長くなったりするタイプを「徐脈」といいます。
1分間の拍動が50回未満だと「徐脈」と診断されます。
徐脈の自覚症状としては、息切れやだるさ、足のむくみ、めまい・失神などがあります。
徐脈の主な原因
徐脈の主な原因は、脈の形成に関わる「洞結節」や「房室結節」という箇所の異常によるものです。
前者の異常を「洞不全症候群」、後者の異常を「房室ブロック」と呼びます。
「洞不全症候群」
右心房には、心臓の中で規則的に電気を送ってくれる「洞結節」という箇所があります。
「洞不全症候群」は、洞結節の細胞に異常が生じ、心臓を動かす電気を発生させる回数が極端に少なくなったり、発生できなくなったりする状態です。
電気不足になると、脈が遅くなるか、ときどき心臓が止まるようになります。
一般に、数秒以上心臓が停止するとふらつきが起こり、10秒以上停止すると意識がなくなって倒れることがあります。
洞不全症候群では、心臓が止まってそのまま死んでしまうことはありませんが、意識を失った時にけがをしたり、交通事故に遭ったりする可能性があるため、注意が必要です。
また、脈の遅い状態が長く続くと、心臓の機能が低下して心不全になることがあります。
「房室ブロック」
洞結節で作られた電気は心房から「房室結節」という箇所を経て心室を収縮させます。
房室結節には電気の流れを調節する役目がありますが、この細胞に異常が生じて、収縮の命令が心室へうまく伝わらなくなった状態が「房室ブロック」です。
房室ブロックになると、心室は自らで電気を発生させなければいけなくなるため、非常に不規則な脈になってしまいます。
その結果、洞不全症候群と同様に、脈が遅くなった時にふらつきや失神、心不全などが起こります。
重度の房室ブロックが起こった場合は、極端に脈が遅くなったり、時に心臓がそのまま止まったりしてしまうことがあります。 その場合、失神や心不全にとどまらず、突然死を起こす可能性があるため、注意が必要です。
房室ブロックは洞不全症候群と異なり、原因の病気が隠れていることが多いので、十分な検査が欠かせません。
検査は、24時間ホルター心電図を行います。
心電図では記録されずとも非常に疑わしい場合は、電気生理学的検査(EPS)で診断する場合もあります。
徐脈になりやすい人
徐脈になりやすい人の特徴として、以下が挙げられます。
加齢や動脈硬化が進んでいる人
洞結節や房室結節の機能低下、機能障害が起こりやすくなります。
甲状腺の病気がある人
甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、若い人でも徐脈が起こることがあります。 心臓の収縮に甲状腺ホルモンが大きく関わっているためです。
薬の副作用
降圧薬や抗うつ薬の一部には、自律神経や心臓の電気の発生に影響する成分を含んでいるものがあるため、それにより徐脈が起こるケースもあります。 また、抗不整脈薬が効き過ぎた場合も徐脈になることがあります。
ペースメーカー治療について
徐脈の多くは直ちに命に関わることは少ないので、自覚症状がなければ経過観察をする場合が少なくありません。
しかし、徐脈の自覚症状がある場合や重症度が高いと診断された場合は、失神による大けがや事故、さらには突然死を引き起こす危険性があるため、ペースメーカーによる治療を検討します。
ペースメーカーが必要な人の条件は?
以下のような人は、ペースメーカーの使用を検討します。
- 息切れやだるさなどの症状が強く日常生活に支障をきたす場合
- 脈が遅く、失神やふらつきなどの症状が出現した場合
- 1分間の脈拍数が40回以下で、心不全の疑いがある場合
- 症状がなくても、4秒以上の心停止が見つかった場合
- 重度の房室ブロックがある場合
一方、肉体労働やトレーニングなどで生理的に洞結節の機能が抑制されて、脈が遅くなっているような人には、ペースメーカー治療の必要はありません。
また、薬剤によって一時的に洞不全が生じた人で、服薬の中止によってその機能が回復しうる人もペースメーカーの埋め込みは不要です。
よって、ペースメーカーを埋め込む前には、徐脈の症状が薬剤やその他の一時的な原因で生じていないかどうかことを確かめる必要があります。
治療の内容
▼ペースメーカーの仕組み
ペースメーカー本体は、重さが20g前後の小さな金属製で、電気回路と電池が内蔵されています。
ペースメーカーは、心臓の動きを継続的にモニターし、遅い脈拍を検出したらごく弱い電気刺激を送って正常な脈拍に戻します。
▼埋め込み手術
ペースメーカーの手術では、通常、利き腕の反対側の鎖骨の下を4~5cm切開し、皮膚と筋肉の間に本体を埋め込みます。本体のほか、リードと呼ばれる電線を血管に通して電池につなぎます。
当院では年間約100人の患者さんにペースメーカー治療をしています。
入院日数は約1週間で、手術時間はだいたい60分です。
▼術後の対応
術後は定期的な点検が必要なので、半年に1回程度、医療機関を受診します。
また、本体の電池が消耗するので、7~8年後に再手術を受けて本体を交換する必要があります。
治療における注意点
ペースメーカーは電磁波の影響によって誤作動する場合があるため、日常生活を送る上で次のような注意点があります。
スマホ、携帯電話
ペースメーカーの本体から15cm以上離して使います。 胸ポケットに入れたりしないようにしましょう。
IH調理器、IH炊飯器
使用の際は、ペースメーカーを接近させないようにしましょう。
肩こり治療器、電気風呂、体脂肪計
強い電磁波を発生する機器であるため、使用はできません。
治療の際は効果とリスクをしっかり理解しましょう
本記事では、徐脈の原因・危険性とペースメーカーを使用した治療について紹介しました。
ペースメーカー治療は、注意事項がありますが、通常の日常生活を営むことはできます。
使用を検討する際は、その効果とリスクについて、医師からの説明を十分に受けるようにしましょう。