虚血性心疾患

虚血性心疾患|コレステロール不整脈弁膜症心臓血管手術が必要と告げられた方にSAS睡眠時無呼吸症候群

Q虚血性心疾患とはどんな病気ですか?

 冠動脈(=心筋に血液をおくる動脈)が狭まったり(狭窄)、閉じてしまったり(閉塞)して、心臓の筋肉である心筋への血液の流れが悪くなり、必要な血液の量を下回った状態を言います。

原因

 多くの場合、動脈硬化症が原因です。動脈硬化症は全身病(動脈は全身に分布しています)ですので、その一つとして心臓の症状が出現しているに過ぎません。従って、脳・腹部臓器(肝・腎・腸)や四肢(手足)・腹部の動脈にも同様の病変(狭窄・閉塞・拡張)があることを前提とした対処が必要です。

症状

 一般的症状としては、まず体を動かしたときに、心筋へ必要とされるだけの血液が流れなくなることから、胸の痛みや圧迫感が出現。場合によっては息切れや胸焼けとして感じることもあります。更に進行すると安静時にも同様の症状が出るようになり、より危険な状態になります。 糖尿病をお持ちの患者さんでは、狭心症としての自覚症状が軽い場合や無い場合があり、知らないうちに心筋梗塞を繰り返して重症の心機能低下を合併し、突然死に至る場合がありますので、注意が必要です。

分類

 狭窄が原因で症状も一時的であれば狭心症と言いますが、冠動脈が閉塞して心筋細胞が一部死んだ状態(壊死:えし)になると心筋梗塞と言い、通常激しい胸痛が続きます。

Q狭心症の症状の特徴は?

 普通は“労作性狭心症”というかたちになります。つまり、急ぎ足で歩いたり、階段や坂道を登ったとき、またひどく興奮したときなど(血圧があがったり脈が増えたとき)に胸の中央部が締め付けられる、あるいはなにかを押しつけられているような圧迫感がでて、少し休むとおさまってしまう、というような症状です。
 痛みはしばしば左肩・腕や顎までひろがり、みぞおちに胃の痛みのように感じられることもあります。息切れ、として自覚されることもあり、これが狭心症による場合は重症である可能性があります。
 内臓の痛みですから、痛みの場所はあまり境界がはっきりしないのが一般的です。ですから“この一点が痛い”と指で示せるような場合は心配ないと思っていいでしょう。
 症状の持続時間は数十秒から数分で、30分とか1時間以上も続く場合は他の病気を考えなくてはなりません。
 一方“安静時狭心症”といって、労作と関係なく同じような症状がでることもあります。これは“冠攣縮”、つまり冠動脈がかってにけいれん性に収縮を起こして縮んでしまい、結果的に動脈硬化で細くなったのと同じような狭窄を一時的に作り出すために起きる現象です。

Q冠動脈の解剖

冠動脈の解剖 冠動脈には、心臓の表面を走る3本の主要な枝があります。心臓の前面を栄養する左前下行枝、後面を走る(左)回旋枝、および心臓の下面を栄養する右冠動脈です。
 下図を参照しながら、あなたの場合どの枝がどういう状態であるのか、主治医の説明をよく聞いて理解してください。

Qどういう人が動脈硬化になりやすいのですか?

 冠危険因子“リスクファクター”と呼ばれているものがいくつかあります。
 ハリソンの内科学書によると、

強い関係をもつものとして
  1. 高コレステロール血症
  2. 低HDL(いわゆる善玉コレステロール)血中レベル
  3. 高血圧
  4. 男性
  5. 糖尿病
  6. 家族歴(若年の冠動脈疾患)
  7. 高リポプロテイン(a)血中レベル
中等度の関係のあるものとして
  1. 喫煙
  2. 閉経後
  3. 高フィブリノーゲン血症
  4. 高ホモシスチン血症
  5. 運動不足
  6. 肥満

があげられています。
 重要なことはこれらのうちの多くが、努力や治療によって克服することができる、ということです。

Q狭心症の検査には、どのようなものがありますか?

  • 心電図
  • 運動負荷試験(トレッドミル・エルゴメータなど)
  • RI(ラジオアイソトープ)負荷試験
  • ホルター心電図
  • 冠動脈CT
  • 冠動脈造影(Q6)

などが主なものです。
 狭心症では安静時の心電図は異常がないのが普通です。ですから、監視下でわざと負荷をかけて、症状や心電図の変化を観察する訳です。
 RI検査も、みているものは違いますが、同じ理屈です。
 安静時狭心症のように簡単に再現できない症状については、夜中や明け方も含めて24時間心電図を記録するホルター心電図が役に立ちます。
 冠動脈CTは下記に述べる冠動脈造影に近い画像を得ることが出来ます。ただし、造影剤アレルギーの注意が必要で、また検査時の心拍数による影響を受けるため、きれいな画像が得られない可能性もあります。
 このような検査で狭心症の疑いが濃厚であったり、否定できない、となると冠動脈造影という検査をして冠動脈のどこにどういう異常があるかをはっきりさせます。
 この冠動脈造影が現在では最終の検査ということになりますが、この検査の重要性は昔に比べると遙かに高まっています。
 というのは、治療の進歩によって、治療法の選択肢が増えたために、その人にもっともふさわしい治療法を決めるためには詳細な冠動脈そのものの情報が欠かせなくなってきたからです。

Q冠動脈造影とは、どのような検査ですか?

冠動脈の模式図 これは冠動脈の模式図です。
 右と左の二つの入り口があります。左冠動脈ははいってすぐに左前下行枝と左回旋枝という大きな枝にわかれるので、これをそれぞれ独立に数えて、“冠動脈は3本ある”と言われます。左冠動脈の根本の部分は別個に左主幹部として扱われます。
 冠動脈に限らず血管は普通のレントゲンでは描写できませんから、造影剤(胃の検査で使うバリウムのようなもの)が必要になります。これを冠動脈に直接注入するための細いチューブをカテーテルと言います。このカテーテルを足の付け根や肘の動脈(最近では手首の動脈を使う施設も増えています)から冠動脈まで進めて、注射器で冠動脈に造影剤を流します。すると、下の写真のような像(実際には動画です)が得られます。
冠動脈造影
 右冠動脈に狭窄病変(上左図の矢印部)があることがわかります。左冠動脈には目立った異常はなさそうです。(上右図)
 左右の冠動脈に対していろいろな方向から撮影を繰り返し、全体像を作り上げるわけです。
 検査中で痛みを感じるのは最初の局所麻酔の注射とカテーテルを通すための管(太めの点滴針のようなもの)を入れるときだけです。
 検査全体に要する時間は、検査の内容にもよりますが30分から1時間程度です。カテーテルを挿入する場所は、手首(橈骨動脈)、肘(肘動脈)および足のつけ根(大腿動脈)の血管が主に使用されます。手首からの場合、術後安静はほとんど必要ありません。肘の場合は1時間、足のつけ根からの場合は5-6時間、圧迫して止血します。この間はベッド上安静になります。穿刺部位は、検査目的によって決定されますが、最近は細いカテーテルで良好な造影が可能となっており、現在でも多くの患者様が手首から検査が施行され、歩いてカテーテル室から病室に戻られます。
 一部の施設では外来で検査して当日帰宅するというやり方も行われているようですが、止血の確認も大切であるため、当院では一般的には翌日退院としております。

Q治療法には、どんなものがあるのですか?

 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)に対する治療には大きくわけて三つの柱

  1. 薬物療法
  2. カテーテル治療
  3. 手術治療

があります。再生・遺伝子治療あるいは人工臓器による代替医療は、近年一部の疾患にて臨床応用も行われるようになり、虚血性心疾患でも今後の発展に期待のもてる治療法ですが、現時点ではこの三つの治療法が中心です。
 カテーテルによる治療 (経皮的冠動脈形成術:PCI)および手術療法(冠動脈バイパス術)は、薬物療法だけでは不十分な場合に施行されます。共に近年技術的進歩が著しい分野です。
 冠動脈バイパス術 (coronary artery bypass grafting : CABG)は、虚血性心疾患に対する手術治療の代表的なものです。
 手術が必要となる場合(手術適応)としては

  1. 3つの冠動脈(前下行枝、回旋枝、右冠動脈)の全てに高度な狭窄がある状態。
    (三枝病変 といいます)
  2. 左冠動脈が左前下行枝と回旋枝に分かれる前(左主幹部)に狭窄がある状態。
    (左主幹部病変といいます)

 三枝病変、左主幹部病変でない場合でも、内科医によりカテーテル治療が不可能・不向きと判断した場合などが挙げられます。特に左主幹部に高度の狭窄がある場合は、突然死の可能性があり危険で早めの手術が勧められます。しかし、最近ではカテーテル技術の進歩、および道具の進化に伴い、以前は手術適応と考えられたケースもカテーテルによる治療が可能となっております。

Q狭心症の薬には、どんな種類がありますか?

 硝酸薬・カルシウム拮抗薬・β遮断薬が代表的です。
 その他にアスピリンなどの抗血小板薬もよく使われます。
 つまり、血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の仕事を減らし、血液をサラサラにしておこうというのが基本です。
 長期にわたって使用するものですから副作用の少ないものが選ばれていますが、それでも副作用が起きる可能性はゼロではありません。
 最近では薬の説明書が薬と一緒にわたされますから、それをよく読んで、気になることは主治医に尋ねてください。

Q冠動脈バイパス術(CABG)とは、どんな手術なのですか?

冠動脈バイパス術 虚血性心疾患の冠動脈の狭い部分は血液の流れが悪くなっています。閉鎖している部分もあります。道路に例えれば交通渋滞・通行止めの状態です。交通渋滞に対しては、渋滞箇所の整備・拡張工事や迂回路を造る道路工事がなされます。 冠動脈も原理は同じで、カテーテル治療では狭くなった部分を直接拡張したり削ったり、狭窄予防にステントという特殊な管を入れたりすることで、また冠動脈バイパス術では新たに別の血管(グラフト)を狭くなった部分の先に吻合することで、狭くなった部分以下の冠動脈へ流れる血液量の増大をはかるのです。
 種々の血管をバイパスの材料(グラフトと言います)として用いますが、どの血管を用いるかは皆さんの状態を考慮して決定し手術前にご説明いたします。

内胸(ないきょう)動脈

 胸骨(胸の前面、真ん中で、左右の肋骨が合流する幅5cmほどの板状の骨)の裏側(内側)を走行します。左右内胸動脈の2本があります。左内胸動脈はほぼ全ての患者さんで用います。

撓骨(とうこつ)動脈

 腕の親指側の血管(皆さんが脈を診るときに触れる動脈)です。通常、利き手の反対側を用います。腎障害のある患者さんでは将来の人工透析時に用いることが多いので、用いないのが一般的です。

胃大網(いたいもう)動脈

 胃を栄養する動脈の一つで、胃は基本的に5本の動脈で栄養されていますので、一本の動脈をとっても血流に問題は生じません。胃は横隔膜一枚を隔てて心臓のすぐそばに接しています。

大伏在(だいふくざい)静脈

 下肢(足)の内側をくるぶしから足の付け根まで走る静脈。などを使います。これらの血管はバイパスに使用するため採取しても、特に悪い影響は残しません。しかし、グラフトとしての耐久性には差があり、内胸動脈が長持ちすることがわかってからは、内胸動脈を中心とした動脈グラフトを用いるグラフト選択(内胸動脈、橈骨動脈や胃大網動脈)がなされるようになっています。

 吻合操作は、f1.0~2.5mmぐらいの血管同士(冠動脈とグラフト血管)を細い針と糸で縫い合わせる操作となります。細かい操作ですので、通常2~4倍の拡大鏡を用いて手術操作を行います。
 今でも多くの施設では、人工心肺装置を用いて心臓を止めた状態で吻合操作を行っていますが、当院では、全ての冠動脈バイパス術(単独)の手術では、心臓を止めないで行う『心拍動下手術(OPCAB)』を行い、良好な成績を残しています。

Q心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)とは、どんな手術なのですか?

 人工心肺を用いず、心臓が動いたままの状態で行う冠動脈バイパス術を、心拍動下冠動脈バイパス術( Off-Pump Coronary Artery Bypass grafting: OPCAB) と言います。
 人工心肺は非常に安全になってきましたが、それでも非生理的環境(心停止・体外循環装置による血液循環・人工肺による呼吸)に身体をさらすため、身体に大きなストレスを与えることがわかっています。そこで、より負担の少ない手術方式としてOPCABが行われるようになってきました。
 ただ、(人工心肺を用い心臓を止めて行う手術と同様の成績を出すためには)技術的に難しいため、全ての施設で行われているわけではありません。(2002年の統計 冠動脈外科学会アンケートで、約30%の症例がOPCABで行われているだけです)

Q手術の危険性はどれくらいですか?

 冠動脈バイパス術の生命に対する危険率は、カテーテルによる治療が行われるようになってから変わってきています。手術適応の項目 (治療法について を参照してください)にも書きましたように、カテーテルによる治療が多くの患者さんに対し行われるようになってきて、合併症の多い患者さんがCABGを受ける比率が高くなってきました。しかし、そのような患者さんに対しても、前述の如く当院ではOPCAB(心拍動下手術)を第一選択の術式としているため、より安全に手術が行えていると言えます。
 一般的には、冠動脈バイパス術の手術死亡率(死に至る可能性)は、1~1.5%と言われています。(2002年冠動脈外科学会アンケート統計報告)しかし、全ての患者さんに『危険性はゼロです』ということはもちろん不可能です。冠動脈バイパス術に限らず、心臓手術の危険性には、心臓の状態は勿論、患者さんの年齢や手術前から持っている術前合併症(余病)によっても変わります。
 基本的には、予定手術(=緊急手術でなく)で大きな合併症の無い患者さんは、『生命の危険率(死亡率) 0.5%』と考えてください。この生命に対する危険率は、総合的な判断が必要ですので、手術前には再度詳しく説明させていただきます。

Q手術の準備は、どんなことをするのですか?

 手術が決まると、手術前の検査を行う(または再評価)と同時に、病状と全身状態が許せば自己血貯血も開始いたします。(『輸血について』を御参照ください。)心臓そのものの評価に必要な検査(多くが既に内科の方で行われています)としては、

冠動脈造影検査

 冠動脈の状態を知るために最も重要な検査です。通常は、手術日の3~6ヶ月以内の検査であることが大切です。

心臓超音波(心エコー)検査

 心臓内の状態を超音波で探る、無侵襲(=痛くない)検査です。

負荷心電図

 負荷のかけ方で、運動負荷と薬物負荷があります。全身状態を診て適切な負荷の方法を選択します。

ホルター心電図

 24時間心電図。

心筋シンチグラム(RIシンチ)

 放射性同位元素を用いた検査で、心筋梗塞を生じた部位(=壊死した心筋)を判別するために用いたりします。

などがあります。
 手術を行うに当たって必要な全身検索・合併症のチェックも行います。

  1. 呼吸機能検査
  2. CT 頭部・胸部・腹部
    全身の動脈硬化性病変の評価
  3. MRA 脳血管の病変(狭窄・閉塞)チェック
    閉塞性動脈硬化症のチェック
  4. 糖尿病・高血圧・喘息などの合併症コントロール
  5. 歯科受診

などです。必要な場合は、専門医(脳神経、消化器、呼吸器、内分泌など)に評価していただくこともあります。
 以上のような検査は、外来で、あるいは入院後に行われます。入院後は呼吸訓練が始まり、担当医や看護師から検査や手術に関する説明が適宜なされます。
 検査結果が集まり手術が近づいたところで、外科医からご家族・ご友人を交えて手術についての詳しい説明も行われます。最終的な診断名、(内科的治療も含んだ種々の)治療方法、手術術式、手術の危険性、手術における合併症、予測される手術後の経過などです。手術中の判断で術式の変更・追加をすることがありますので、ご了承ください。疑問点があれば、遠慮なくご質問ください。また、『身体障害者』や『更正医療』などの手続きをご希望の方は、早めにされておくことをお奨めいたします。

Q手術後は?

術後経過

 通常の冠動脈バイパス術の場合、手術当日麻酔より目覚め、会話が出来る状態になり、翌日からは食事・歩行訓練が始まります。集中治療室での治療は2~4日です。一般病棟に帰室後は早期の退院を目標にリハビリテーション訓練に入ります。冠動脈バイパス術後のリハビリテーションについては、専門のスタッフより説明があります。十分、理解して取り組むように心がけて下さい。手術創部は、通常は埋没縫合(表面に縫合糸が出ませんので、抜糸が必要ありません)ですので、術後5日目から開放処置(ガーゼなどで覆わずに、開放とする)となります。埋没縫合でない場合(糖尿病の合併や心機能が悪いため、創部の治癒が悪いと予測される方の場合)、皮膚縫合糸の抜糸操作が術後7日目頃に行われます。抜糸終了翌日、外科医が創部をチェックし問題なければシャワーが許可されます。入浴についても、順次許可されて行きます。術後7~14日にて術後確認のための冠動脈造影検査を受けていただきます。手術後早期の開存率は98%以上です。

退院後

 手術後も、主治医と相談し、バイパスが閉塞しないよう、良い状態を保つようにしてください。退院後の遠隔に症状が再発した場合、再検討は必要ですが、カテーテルによる治療や再手術は可能ですので、定期的な検査をお勧めします。また、開胸操作に伴い胸骨を離断しますが、これは一種の骨折ですのでこの治癒に術後6~8週間の期間が必要となります。この間は重量物の運搬(片手2kg以下)や満員電車での通院、胸部の打撲などは避けるようにしてください。退院後は今まで通り担当の内科の先生に外来にて診察していただきます。担当の内科医には、手術終了後、報告が出されておりますので、問題なく診療が継続される様になっています。外科医の診察は、退院直後に一回診させていただき、創部に問題なければ一年に一回を目安にしていただければ結構です。早ければ術後1週間で、遅くても1-2ヶ月の間に、殆どの方が社会復帰されますが、無理な食事制限や運動は控えるようにしてください。内科医の指示を守るようにしてください。胸骨の治癒(癒合)が完了する手術後2ヶ月すぎたら、ゴルフ、水泳などの運動を再開することが可能です。ゴルフならば、胸骨治癒の術後8週で素振りを開始、3ヶ月すぎにボールを打つという予定が良いと思います。運動後は、手術後に経験した筋肉痛があるのが普通です。ストレッチ体操などで、筋肉をほぐすことを忘れないようにしましょう。

その後は

 手術1年後に、冠動脈造影検査を含めた一通りの検査を受けることをお勧めします。1年後にバイパスが開存していれば、閉塞する確率は低くなります。症状の再発や負荷心電図で異常がでない限り、安心して日常生活ができると思います。その後は、手術より5年毎に冠動脈造影検査を受けることをお勧めします。バイバスだけでなく、患者さんのバイバスしていない冠動脈に新たな狭窄が起こってくることがあります。1年に1回は負荷心電図検査等でチェックを行い、異常を早期に発見するようにしましょう。何カ所もバイパス術を受けた場合、1箇所のバイパスが閉塞しても、症状が殆どなく経過する場合があります。バイパスとは一生のおつきあいです。外来内科主治医の先生と相談の上、生活習慣の改善を含め、新たな血管(グラフト)を大切にしてください。

Qカテーテルインターベンションとは、どんなものですか?

 カテーテルを用いて行う治療全般を指す言葉ですが、ここでは冠動脈疾患に関係することだけを説明します。
 1970年代の中頃にヨーロッパで開発されたバルーンによる冠動脈血行再建法が出発点です。わかりやすく“風船療法”と説明されたり、PTCA(本来は古典的なバルーン治療を指す)と略語で呼ばれたりすることもありますが、今では“風船”以外のさまざまな手法が開発され、一括して“コロナリーインターベンション”と総称されます。
 それまで、詰まってしまった、あるいは詰まりかかった冠動脈の血行を回復するためにはバイパス手術しか方法がありませんでした。
 しかし、バイパス手術は開胸術を必要とする大手術です。できることなら体への負担をできるだけ少なくして血行を再建したい、と考えるのが人情です。このバルーン療法の成功が報告されると、またたく間に世界中に普及しました。さらにバルーンだけではなく様々な道具が開発されましたが、その途中経過はここではちょっとはしょります。
 さて、方法ですが、どのインターベンションも冠動脈造影と同じように、カテーテルという細い管を直接冠動脈の入り口まで通すことからスタートします。このカテーテルの中を通して細い(0.014インチ)針金を狭窄部(完全に詰まっているときはそこをこじあけて)の先まで送り込みます。これも全ての方法に共通です。
 その針金をガイドにしてバルーンその他の道具を狭窄部まで持っていき、拡張の作業を行うわけです。

  1. バルーン
  2. ステント
  3. ロータブレーター

です。
 上記以外にレーザーもありますが、あまり一般的ではありません。
 狭窄部まで到達した道具で、狭窄部を押し広げる(バルーン、ステント)、動脈硬化巣を粉砕する(ロータブレーター)、動脈硬化巣を削り取る(DCA)ことによって狭窄を解除するわけです。
 全体の所要時間は数十分から数時間(病気の状態によってさまざまです)、痛みを感ずるのは最初の局所麻酔とカテーテルの外筒を血管に入れるとき、それに拡張作業を行っている間の数十秒(この間は冠動脈の血流が止まりますから)です。
 術後の安静時間は施設によってさまざまですが、標準的に足の付け根から行い圧迫止血する方法では5-8時間の安静を要します。
 こうして見てくると、バイパス手術に比べると遙かに楽そうですが、狭窄の状態によってはどうしてもバイパス手術のほうが良い場合もあります。
 また、バイパス手術は手術が完了すれば一応治療が完結するのに対して、カテーテルインターベンションには“再狭窄”という特有の問題があり、これが起きないことを確認して初めて治療が完成する、という違いがあります。

Qバルーン形成術とは、どんな方法ですか?

 これが古典的な意味でのPTCA (Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty;経皮的冠動脈形成術)です。1977年に最初の報告が発表されてからもう20年以上たちました。ステントが全盛の現在ではPOBA (Plain Old Balloon Angioplasty)と呼ばれることもありますが、この方法が基本であることは変わりません。
 急性心筋梗塞で緊急カテーテル検査を行い、引き続き治療を施した患者さんの造影像を示します。下左画像が左冠動脈の造影像です。左回旋枝が急に細くなって赤矢印部分で途切れているように見えます。その先の心筋に血液が供給されていないことが分かります。
 直ちにガイドワイヤを挿入して、バルーンで拡張します(下右画像)
バルーン形成術
 左冠動脈(右前下方より見る)矢印部位で血管が閉塞 閉塞部でバルーンを拡張
 拡張と確認造影を繰り返し、ステントを挿入して拡張状態を維持します(下左図)最後の確認造影が下右図です。完全閉塞していた血管が開通して広い心筋領域に血液が供給されました。
バルーン形成術

Qステントとは、どんなものですか?

 動脈硬化巣の成分は皆同じではありませんから、同一の場所でも物理的な固さが極端に不均一になることもあります。そのためバルーンによる拡張では血管の一部に亀裂が生ずることがあります。これを“解離”といいます。小さい解離であれば問題ありませんが、大きな解離は血管を閉塞してしまうことがあります。この現象は“急性冠閉塞”と呼ばれ、全PTCAの数パーセントに発生する重大な合併症として恐れられてきました。この急性冠閉塞を防ぐために開発されたのがステントです。
 つまり、バルーンで大きな亀裂ができてしまったときに、筒状の金属を血管の内側にいれて、それによって亀裂を支える、という方法です。
 その後、亀裂ができなくともステントを使って大きな内宮面積を確保しておけば、“再狭窄”という急性冠閉塞とともにPTCA治療におけるもうひとつの重大問題も回避できる、という考えが生まれ、実際いくつかの大規模研究によってバルーンだけによる治療よりステントのほうが、再狭窄が少ないことが証明されるに至ってステントは爆発的に普及したのです。さらに近年では、ステント表面に再狭窄予防の薬(全身に影響の出ない程度の極少量の免疫抑制剤)が塗布された薬剤溶出性ステントが使われており、再狭窄は5%程度に抑えられており、全コロナリーインターベンションの大部分をステント植え込みが占めております。ただ、ステントは万能ではありません。ステントがはいったために却ってややこしい形の再狭窄を生じたり面倒な事態を引き起こすことだってないわけではありません。(こういう状態を業界では“ステント病”(stent disease)となかば自嘲的に呼んでいます。)
 コロナリーインターベンションも、さまざまな手法の選択肢のなかからその人その人に最適な治療法を選択し、組み合わせて使用する時代になりました。
 実際のステントを見てみましょう。
ステント これはステントが、拡張された状態です。ステント構造はさまざまな種類が存在し、直線的なもの、屈曲に適したしなやかな形態のもの、病変から分岐する血管へのアプローチに適したもの、などがあり、それらの材質はステンレス・コバルト・プラチナなどが主流です。これが通常のバルーンカテーテル上に閉じた状態でマウントされており、この部分を狭窄部まで押し進め、そこでバルーンをふくらませると上の写真のようになります。バルーンがしっかりふくらんだのを確かめてからバルーンをすぼめて引き抜きます。そうすると狭窄部はしっかり広げられたうえ、内側からステントで支えられることになります。

Qロータブレーターとは、どんな道具ですか?

 動脈硬化が進むと、血管に石灰が付着してきます。そうすると血管は極端に固くなります。変な話ですが、病理解剖のときに使うメスの刃がボロボロになってしまうような文字通りの動脈硬化にまで進行することがあります。そういう血管をバルーンで拡張しようとしても十分広がってくれません。今のバルーンには20気圧以上の圧をかけても破裂しないように設計されているものもあるのですが、それでもダメ、あるいは固い部分と柔らかい部分の境目に大きな亀裂を作るだけ、というような病変もあります。そういうときの強力な道具として登場したのがロータブレーター(Rotablator)です。
 これはワイヤーの先端に弾丸型のダイアモンドチップ(burr)が取り付けられており、そのチップを一分間に15万回以上回転させて、固い粥腫を赤血球大にまで粉砕して流してしまう、という道具です。
 では、まず実例です。
ロータブレーター
 上左図の矢印部はまだ造影剤が注入されていないにもかかわらず、血管に沿って黒く見える部分があり、これが石灰化の存在を示しています。上右図において、その石灰化の部位に狭窄が存在しています。拡張不良が予想される所見です。
ロータブレーター
 まずロータブレーターを施行し、石灰化を削ります(上左図)。その後はバルーン、およびステントにて拡張します(上右図)。
ロータブレーター
 左冠動脈を正面上方より見る

 最終的に、良好な拡張が得られました。
 また、理論上は細かく粉砕された病変は血管に詰まることはないはずなのですが、必ずしもそううまくはいかず、胸痛が長く続いたり、ひどい場合は心筋梗塞になってしまうこともあります。ですから、心筋梗塞を繰り返したために残された心臓の機能の少ない人や、著しく病変が長いために削られる病変の量が多いと予想される病変には、ロータブレーターによる治療はあまり適していません。
 ロータブレーターは基本的にプラーク表面付近の硬い組織を削り取る道具であり、その後、バルーンカテーテルおよびステント留置が行われます。

Q再狭窄とは、なんですか?

 コロナリーインターベンションの主な合併症である急性冠閉塞(せっかく広げた血管がすぐに(大抵は数時間以内)閉塞してしまう現象)はステントの普及によってかなりの程度克服されました。
 また、ステント特有の合併症として心配された亜急性血栓性閉塞(術後2週間くらいの間にステントをいれた場所に血栓が付着して血管が閉塞してしまう現象(SATと呼ばれる)も薬の工夫によって滅多に起こらなくなりました。
 こうして現在ではコロナリーインターベンションの初期成功率、つまりとりあえず手技がうまくいき、無事退院できる確率は待期例であれば、ほぼ100%を越えるようになっています。
 しかし、重大な問題が残っています。どの方法をとるにせよ、カテーテルによる冠動脈治療は血管の内側に傷をつけることを避けられません。そうすると、血管にはその傷を修復しようとする機転が働きます。その結果術後数ヶ月以内に、せっかく広がった冠動脈が術前と同じ、ときによっては術前よりひどい狭窄を起こすことがあるのです。この現象を“再狭窄”(restenosis)といいます。
 再狭窄の起こるメカニズムははっきりとはわかっていませんが、バルーンなどによって引き伸ばされた血管が(ちょうど引っ張られたゴムのように)また縮んでしまうリコイル(recoil)という現象や傷ついた血管の壁の中の平滑筋をはじめとする細胞の増殖血管の再構築(remodeling)という現象などが複雑にからみあって発生すると考えられています。
 術後数週から数ヶ月のあいだに完成し、50%以上の狭窄になってしまうことを再狭窄と考えると、バルーンによる拡張に成功した血管の4割、ステントを留置した2割くらいに起こるとされていました。
 そこで最近登場したのが薬剤溶出性ステントです。このステントは、通常のステントに免疫抑制剤がコーティングされており、ステント再狭窄の原因となるステント内新生内膜の増殖を抑制します。日本においても2004年8月から使用と可能となっており、当院でも現在数多くの症例に対し、このステントを留置しております。再狭窄率は3-7%と言われています。現在では、ほとんどの症例でこの薬剤溶出ステントが留置されています。
 インターベンションの直後にどんなにきれいに見えている血管でも再狭窄は起こりうるので、術前と同じような症状がでてきたら、すぐに主治医に連絡すること 症状がなくとも決まった時期に冠動脈造影検査を受けて再狭窄の有無を確認すること(運動負荷テストやRI検査で代用することもできないわけではありませんが、その診断能は確実ではありません)です。
 安静にしていれば再狭窄が起きにくくなるわけではありませんから、術後2週間くらいは過激な運動は避けるとしても、そこから先は普通の日常生活を送ればいいのです。
 とにかく、症状が再発してきたら甘く考えずに、できるだけ早く病院と連絡をとることがいちばん重要です。次の外来予定日まで我慢しているうちに心筋梗塞をおこしてしまった、というような残念なケースを、わたしたちも何度か経験しています。